そして消えゆく君の声
 慌てる私を突き刺す視線に宿る無言の圧力。なんだか苛立ちが増したように見えて、拒みすぎたかもと冷や汗が出る。


 けれど、黒崎くんは有無を言わさず指輪を引ったくると(言い方は悪いけど、本当に強奪にしか見えなかった)背を向けたまま小声で続けた。


「日原が、じゃなくて」


 靴裏が地面を擦る。言いあぐねるように、本当に伝えたいことを探すように。

 続く言葉はさらに声量が抑えられて、ざわめきの中でかき消えてしまいそうだった。


「………俺が、買いたいから」


 そうほとんど消え入りそうな声量で告げられた言葉が耳から脳に伝わった瞬間、顔を見られていたら私はその場で倒れていたかもしれない。


(だ、だって)


 普段あんなにぶっきらぼうなのに、言ったほうがいいことも全部飲み込んでしまう人なのに、何でこんな時にだけ直球かつ豪速球な言葉を。しかも言うだけ言って、フォローもないし。


 こんなのずるい、こんなの、絶対。
 

(わ、私の気も知らないで……!)


 真っ赤になった頬を冷やしたいけど右手は幸記くんとつないだままで、空いた手でぺたぺたと両頬を押さえる他ない。

 幸記くんが横にいるのにこんな反応しちゃいけない。というか、黒崎くんにだって見られるわけにはいかない。


(落ち着け、落ち着け私)


 そうくり返せばくり返すほど熱は高まっていって、顔から火が出そうで。

 結局、黒崎くんが指輪を手渡してくれた時も俯き加減で頷くことしかできなかった。



「……あ、ありがとう」
 
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