そして消えゆく君の声
 外廊下から見える庭園は、すっかり夏の様相だった。生ぬるい空気、色あせた紫陽花。あと数週経てば、蝉が鳴きはじめるだろう。


(困ったな。もう七月は目の前だ)


 一緒にホタルを見に行くと約束したのに、今から予定を立てても間に合うだろうか。

 ホタルの活動期間は五月から七月。涼しい場所に足を伸ばせば、もう少し先でも大丈夫なのだろうけど。


(来年にはしたくない)


 中等部に入れば今よりもっと忙しくなって、学外で拘束される時間も増える。

 半日がかりで遊ぶ時間などなくなるかもしれないし、何よりも、あんなに嬉しそうにしていた□□を待たせたくない。


 二人で出かけて、川のせせらぎの音を聞きながら、夜を舞うホタルを眺めたい。きっと星空もきれいだ。


(うん。やっぱり、ちょっと遠出しよう)


 夏休みまであと少し。

 どこに行くか今から相談して、何時間もかかるような場所なら思いきって一日泊まったっていい。

 家の許可が下りるかは難しいところだけど、そこは自分の腕の見せ所だろう。


 楽しみだなと笑いながら軽い足取りで歩くと、板張りの廊下がキシキシと鳴った。
 
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