そして消えゆく君の声

花に似た

 九月。


 朝夕の暑さが少しやわらいで、涼しい風が登校中の頬をなでていく季節。過ごしやすく心地良い、大好きな秋の始まり。


 ……なんだけど。


(どうして、こんなことになっちゃってるんだろう)


 新学期が始まって三週間。

 おだやかにうつろう季節とは裏腹に、私の心は加速をつけて落ち込み中だった。


(ぜったい、ぜったいに避けられてる)


 誰に。なんて言うまでもない。黒崎くんだ。

 剥き出しの心に触れた、触れられたと思ったあの日から一変、新学期が始まるなり前触れなく背中を向けた黒崎くんによって、私たちの距離はどんどん離れて今や友達どころか他人以下になりそうだった。


 話しかけても、メッセージを送っても、返ってくるのは無視か無視に近い最低限の言葉だけ。

 それでも何とかきっかけを探して声をかけていたのだけど、一方的な話題なんてすぐ尽きるに決まっていて。

 ここ数日は目も合わせていない。


「…………ハァ」

「桂、ため息ついても夏休みは戻ってこないよ」


 晩夏のアサガオみたいにしおれた私をなぐさめる雪乃。そうじゃないよと言いたかったけど、首を振る気力すらなかった。


 寂しさも苛立ちもあるけれど、なぜ避けられているのか心当たりがないのが一番悲しい。

 私に悪い点があったのなら反省もするけど、どれほど考えても原因は思い浮かばず、黒崎くんも教えてくれない。 


 確かに近付けたと思ったのに。

 なんで。
 どうして。


 答えのない言葉にうつむいた気持ちで携帯を手に取ると、ガラスの花がきらりと輝いた。
 
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