そして消えゆく君の声
「それにしても今日は暑かったね」


 がさごそと中をさぐって取り出したのは銀色のライター。

 ……と。


(煙草……)


 無造作に放られた細長い紙箱に私は思わず眉をひそめた。


「そんな目で見ないでよ、家じゃ吸いにくくてさ」

「身体に悪いですよ」

「緊張してんの、ほら、日原さんが可愛いから」


 まったく全然心にもなさそうなことを言うと、薄茶色のフィルターを口にくわえる。

 銀色のレトロなオイルライターで火をつける姿はちょっと格好良かったけど、ほこり一つ付いていない制服姿とはちぐはぐだった。


「あの、要さん」


 紫煙が天井にとけてから、私はおずおずと口を開いた。


「なに?」

「黒崎くん、今日は、風邪ですか?」 


 つい風邪という言葉を出したのは、きっと、そうであってほしかったから。

 もともと学校を休みがちな黒崎くんだけど、新学期に入ってからは特に欠席が多い。

 何かあったんじゃないかと不安で、気が気でなくて。けれど要さんは「ああ」とあいづちを打つと、あくび混じりに答えた。


「あいつは物忌み」

「ものいみ?」


 って、平安貴族が家にこもるあれ?
 
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