そして消えゆく君の声
「俺がそう呼んでるだけ。時々あるんだよ、死人みたいな目ぇして部屋から出てこない日が」


 死人みたいな、目。

 頭の中によみがえる、深い闇に沈んだ夏の夜。どこか遠い場所に心を置いてきたような、生気のない目。

 ……あれが要さんの言う物忌みなんだろうか。だとすれば、黒崎くんは度々悪夢にうなされているのかもしれない。


「理由に…心当たりとかありますか」

「知らないし、興味もないな」


 本当にどうでも良さそうに言うと、要さんはテーブルのすみに置かれた灰皿を引き寄せた。

 つるりとしたシンプルな陶器に、控えめな照明が映っている。


「根が辛気くさいやつだからね、死んじゃう夢でも見たんじゃないの」

「……」

「自分のこと全然しゃべらないしな、あいつ」


 ……そっか。

 要さんは知らないんだ。黒崎くんの、悪夢のこと。たしかに、お互いの性格を考えると話すとも訊ねるとも思えないけど。


 自分を罰するように、涙をこらえながら。
 あの夢の中で、黒崎くんは誰に謝っていたんだろう。


「ま、そんなことは置いといて」


 片手で沈黙を振り払い、要さんはニイッと唇を持ち上げた。
 
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