そして消えゆく君の声
「夏はどうだった?」

「はい?」

「はい?じゃないよ。夏休みは楽しかったかって聞いてるの」


 察しが悪いと言わんばかりの呆れた声。

 理不尽だ、と思ったけど、こういう人だからしょうがないと慣れつつある自分がいた。


「宿題に苦労しましたけど、楽しかったです」

「驚いたよ。てっきり清い仲かと思っていたら、まさか朝帰りなんてさ」

「朝?」


 きょとんと聞き返して、数秒。

 言葉の意味に気付いた私は、思いきり裏返った声で否定した。


「ご、ごご、誤解ですっ!!」


 机を叩いて立ち上がった瞬間、キィッと耳障りな音が響いて慌てて座り直す。


「一々本気にするからからかわれるって自覚してる?」

「言っていい冗談と悪い冗談がありますっ」

「はいはいわかってますよ。そもそも二人きりで出かけたわけじゃないしね。大方、楽しすぎて終電逃しちゃったってとこかな」


 指に煙草をはさんだまま、要さんは額の前髪を軽く払った。


「楽しすぎてというか、私のせいで帰れなくなっちゃって……」


 無理してサンダルをはいたこと、足が痛くなってバスを逃したことをかいつまんで説明すると、要さんは肩を震わせてくつくつと笑い出した。


 我慢できない、と言った風に口元と押えて。
 
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