そして消えゆく君の声
「自……」


 絶句。


 自殺未遂?
 征一さんが?


「何の前触れもなくいなくなってさ。秀二が連れて帰ったんだけど、あいつその時ひどい風邪ひいてて、死にかけたのは弟のほうでしたってオチ」


 要さんの目は笑っていなかった。しきりに煙草をいじる指が、内心の迷いを想像させる。 


「征一、周りには星を見に行ったって言ってたけどそんなの信じられるわけないだろ? で、よくよく聞いてみたら飛び降り自殺するつもりだっただと。遺書も見たよ、当たり障りのない内容だったけどね」


 淡淡とつむがれる声が怖い。

 私は乾いた唇を舐めて、震えの走る指をきつく組んだ。


「そんな、自殺だなんて……どうして……」

「ただの思いつきでしょ。本人も何となくって言ってたし」

「お、思いつきって、だって、死んじゃうんですよ!?」

「自分が死のうが生きようがどうでもいい、そういう奴なんだよ」


 わからない。

 征一さんがわからない。


 死ぬ理由もないのに、大事な家族がいるのに思いつきで死を選ぶなんて。


 ただ一つわかるのは、あの優しげな笑顔は何か大切なものが欠落しているということ。
 
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