そして消えゆく君の声
「ああ見えて頑固だから、見つけたのが秀二でなけりゃ止められなかったんじゃないかな」

「……亡くなっていたかもしれない……っていう、ことですか」

「現状を考えると、そっち方が良かったのかもね」


 そこで言葉を止めると、要さんはようやく煙草に火をつけた。

 暗い店内で、ライターの灯りが要さんの薄い唇と、わずかに覗く綺麗な歯並びを照らす。煙を吸い込み、吐き出すまでの短い沈黙は砂のようにざらついていた。


「そんだけ特別なら普通に大事にしてりゃいいのにアレだからね。いつだったかな、雨降ってたのにずぶ濡れで帰ってきたことがあって」
 

 雨。


 背筋がゾクッとした。雨の日。傘がなかった黒崎くん。


(私に、傘を貸してくれた日だ……)


 を私の動揺には気付いていないのか、要さんの言葉は静かなままだった。


「確かに傘持っていたはずなのに失くしたとも盗まれたとも言わなくて、それが腹立って……いや、正直に話してほしかったのかな、とにかく、俺が吸ってた煙草を取って、秀二の目を焼こうとしたんだ」

「目……」


 さらりと告げられた事実に、胃がねじれそうなほどの衝撃を受ける。


 火のついた煙草の温度は800度を超えるって、授業で聞いたことがある。その煙草で、凶器で、焼こうとした。弟の眼球を。


 狂気?


 違う、そうじゃない。何かもっと根の深い、もっと救いようのない何か。
 
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