そして消えゆく君の声
「俺はお兄様が大嫌いだから、色々ひっかきまわしてやりたいわけよ。何もかもがアンタの思い通りになるわけじゃないって」

「敵の敵は味方……みたいな感じでしょうか」

「それはどうかな。俺は味方じゃないし、征一も敵じゃないでしょ。あいつが秀二を苦しめてやろうって思っているならともかく」

「でも、征一さんのやっていることは、黒崎くんを傷つけています」

「一般的な愛情や幸福を理解する力が欠けてるんだろうね。だから自分のことも大切にできないと」


 要さんの言葉に、私は今日の雪乃の話を思い出した。

 何があっても動じなくて、失敗作のケーキも食べてくれる征一さんの話。完璧なようで、意外と天然で優しい王子様の笑い話。


 でもひょっとしたら、征一さんにはわからないんじゃないだろうか。


 何がおいしくて何がおいしくないのか。何が好きで何が嫌いなのか。要さんも、前に言っていた。征一さんには何もわからないって。


 もし征一さんに何らかの感情を理解する能力がないのだとしたら、痛みや苦しみがわからなくて、何かのきっかけで「正しいこと」だと思い込んだ暴力を実践しているのだとしたら――


考えすぎだろうか。


でも。
 
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