そして消えゆく君の声
「正直に気持ちを伝えて、二人を傷つけるのが怖い。都合のいいことを言ってるのはわかる、気まずくなるのが嫌で、いい人ぶってるだけだって。でも、いざ行動しようとするとどうしても足がすくんで」


 何勝手なことを言っているんだろうって自分でも思う。どれだけ答えを延ばしたところで結果は変わらないのに。

 気遣っているのは幸記くんに対してじゃない。もちろん、黒崎くんに対してでもない。


 自分だ。


 私は自分かわいさに幸記くんに甘えている。返事はいらないと逃げ場を残してくれた幸記くんに。


「桂」


 うつむいて話す私に、雪乃はいつもとは違う、真面目な声で名前を呼んだ。


「桂は、その子を傷つけたくないんだよね」

「うん」

「でもさ、向こうだってわかってたと思うよ?自分が告ったら今の関係壊しちゃうって」

「……うん」

「あたしも時々そういうのあるけど、やっぱ、覚悟もって告白してくれたなら自分もそれなりの返事しなきゃいけないと思う。でなきゃお互い先に進めないじゃん。せっかく勇気出したのに、壊しっぱなしじゃ悪いよ」


 例え思いを受け入れられなくても「受け止め」なくてはいけない。

 それが最低限の礼儀だと言う雪乃に私は小さく頷いた。


「そうだよね…」
 

 今の私は、幸記くんから火のついたロウソクを差し出されているのと一緒。

 目の前でゆらめく炎を自分の心に灯せないからと、ただ溶けていくロウを眺めている。


 幸記くんの優しい手が、火傷を負うかもしれないのに。
 
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