そして消えゆく君の声
「――――」


　黒崎くんの目が、これ以上ないほど見開かれた。

　道路を走る車のライトが、針に似た銀色の雨と身じろぎ一つしない長身とを照らし出す。


　灰色に濡れた秋の宵。

　薄暗い景色の中で、面積を増した白目だけが異質に浮き上がった。


「……………なんで」


　ようやくしぼり出された声は、まるで私が世界の終わりでも告げたかのような乾いた絶望に満ちていて。


「お前、そういう冗談は……」

「こんなこと、冗談で言うと思う？」

「………………」

「私、黒崎くんが好き。本当だよ」


　想いが言葉になる。


　一度口に出してしまえば、あとはもう、ためらいなんてなかった。胸にとどめていた気持ちが、せきを切って溢れる。


「あの日、傘貸してくれた日ね。黒崎くんって実は優しい人なんじゃないかって思ったの。もちろん、その時はただの想像だったけど、話せば話すほど、私の直感は正しかったんだって嬉しくなって」


　黒崎くんは人に理解されにくいし、されたいとも思っていない人だ。

　無口で無愛想で、同じクラスの友達が「何か怖い」って言っていた時も私は上手く言い返すことができなかった。


　でも　

　誰かがゆっくり歩いていたら、何も言わずに待っていてくれるような。

　涙に暮れる人のとなりで、ずっと座っていてくれるような静の優しさがあって。


　そんな不器用な思いやりが、どれだけ傷ついても幸記くんを護ろうとする強さが、とても好きだった。
　
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