そして消えゆく君の声
 感情という指標を失って、何かの拍子に不協和音を奏ではじめた征一さん。


 どうすればあの人に正しい愛情を教えられるのだろう。

 行動を監視して、思う通りにならなけらば傷つけるなんて愛じゃないって。もっとみんなが幸せになる方法があるんだって。


「正しい」愛情……

「正しい」兄弟のあり方……

「正しい」…………


 そこまで考えて、自分の思考に呆然とした。


 私は大切なものを失った征一さんに、あなたが黒崎くんを苦しめていると言うつもりなんだろうか。

 あなたは間違っているから自分の言う通りにしろと。何の解決法も持っていないのに。

 私はあの人に自分が作った仮面を着けさせようとしている。



 黒崎くんが大事。
 幸記くんも大事。

 二人には、いつだって笑っていてほしい。でも二人の幸せには、征一さんという影が差している。


 決して戻らない壊れた心に、何を伝えればいいんだろう。話すことなんてあるんだろうか。


 たどりつきたい場所はあるのに、どうしても道のりが見つからない。


 きりきりと胸を締めつける痛み。頭を揺さぶる懊悩は心のひだにからみついて、夢のなかまで付いてきそうだった。
 
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