そして消えゆく君の声
 秋の空は高い。
 抜けるような青空に、鰯雲が群れている。


 絶好の文化祭日和。

 私は喧騒を離れた屋上で、中庭を彩る模擬店をながめていた。


 多くの人が行き交う校内は、よそいきの服を着たみたいに華やかだ。


 お弁当売りみたいな浅い箱を首にかけて何か売り歩いている化学部、真っ赤な腕章をつけてあわただしく歩き回る生徒会の男の子と、後を追う女の子。

 おそろいの黒いパーカーを着たダンス同好会。そして、たくさんのお客さん。

 一人一人の姿や声が学校中のにぎやかさにつながって、染まりきらない落葉樹の代わりに色をそえている。


 こういう雰囲気は大好き。楽しくて、明るくて。


 うちのクラスの模擬店は和風喫茶店で、私は調理役。

 日ごろは全く目立たない自分が厨房に立って、手際いいねなんて褒められるのはなんだかくすぐったくて、でも誇らしかった。


 ……なのに、休憩時間をもらった私がおとずれたのは地上でなく、ここだった。


 階段を降りる途中で「あの人」の気配を感じた瞬間、たまらない胸苦しさが押し寄せてきて。酸素を求めるように空の見える場所を目指した。


(避ける理由なんて、ないのに)


 心のなかで呟きながら見下ろしたのは波打つ横断幕の下、校舎と広場をつなぐ外廊下。

 舞台の宣伝中なんだろう、チラシを手にした演劇部の女の子たちが一生懸命何かを話していた。


 あの人……征一さんと。
 
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