そして消えゆく君の声
「桂さん」


 幸記くんが、澄み切った声で私を呼んだ。


「俺のせいで泣いてるの」

「違う、幸記くんのせいじゃない。私が……っ」

「うん」


 意味をなさない言葉を包みこむ笑み。

 泣きじゃくる私の背をぽんぽんとたたく仕草は、小さいころに見上げたクヌギの木のように、安心感を与えてくれた。


 私の弱さも優柔不断も全て許して、想ってくれる幸記くん。
  

「俺は平気だよ、だから泣いちゃ駄目。俺、笑ってる桂さんばっかり覚えていたいんだ」

「ごめんね、本当に、本当に……っ……私……」

「それは謝るようなことじゃないよ。それに、俺もちょっとずるかったから、こうなってホッとしてる」


 あふれる涙がかぼそい肩を濡らす。

 何も言葉にならなくて、ただしゃくりあげる私を、幸記くんはずっと抱きとめてくれた。澄んだ色の瞳の奥に、諦めに似た悟りを浮かべて。



「秀二と、仲直りできたらいいね」



 優しい願いは、魔法のように心のすみずみにまで響いた。
 
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