そして消えゆく君の声
 木々の揺れる音が、私を現実へと引き戻す。


「幸記は、何て」


 地上を見ている私には、後ろに立つ黒崎くんの顔は見えない。

 それは黒崎くんも同じで、たった数メートルの距離は互いの心を表すように、決して縮まらない。


「…………」


 だから私は問いには答えず、女の子と征一さんのやり取りをながめた。

 チラシを指でなぞる征一さんに、何か説明している女の子。強い風にはためくオーガンジーのドレス。舞い上がる木の葉。

 やがて時計を見た女の子たちがシンデレラみたいに慌てて走りだして、辺りに誰もいなくなった時。


 不意に、征一さんが顔を上げた。


 何気なく空を仰ぎ……私に気付いたのだろう、チラシに口元を隠された顔には瞬時に飾り気のない笑みが浮かぶ。


 いつもと同じ優しげな表情。みんなが想像する征一さんの笑顔。

 でもほんの数秒、視線を感じるまでの本当に短い時間。


 そこにあったのは確かな無だった。
 
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