そして消えゆく君の声
 雪乃がたずねているのは、もちろん黒崎くんと幸記くんのこと。

 月を二つまたいで季節を越えても、私たち三人の関係が変わることはなかった。


 ううん、私たちを取り巻く環境には変化があった。それは、幸記くんと出かける機会が増えたこと。


 秋の日の散歩以来、幸記くんは月に何度か私の家をおとずれるようになった。

 用事があったから。それ以上は何も語らない幸記くんと手をつないで、移ろう季節を見届けて。


 ささやかな自由。

 手のひらごしに伝わる幸福。


 私の知らないところで、小さな歯車が回り始めているのかもしれない。それとなくたずねても、答えが返ってくることはなかったけど。


「ほんと、最近の桂は秘密主義だよね」


 何も言わない私に雪乃が肩をすくめて、呆れたように笑った。


「別にいいけど。急ぎすぎるのもいけないし、また教えてよ」

「……うん、いつかね」


 無理強いしない気遣いに安堵が広がる。

 雪乃は思ったことをぽんぽん口に出すタイプだけど、相手が言いたくないことは決して深追いしない。そういう子だった。


 何もかもは話せなくても、この想いが上手くいかなくても、いつか雪乃に報告できる日が来たらいいな。

 頭のすみで考えながら引き寄せた告知用紙には、字も綺麗さもまちまちの名前が並んでいた。
 
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