そして消えゆく君の声
「あ、日原。家の手伝いしてたんだって? お疲れさん」

「橋口くんこそ、幹事お疲れ様」


 明るい声に、ふっと笑みが生まれる。

 どちらかと言えば小柄な橋口くんだけど、今日は私服のせいか何だか大人っぽく見える。

 ふだんあまり男の子と話をしない私はちょっと緊張してしまって、意味もなくカーディガンをかき合わせながら言葉を続けた。


「今日ね、楽しかった。ありがとう」

「幹事って言っても俺、なんもしてねえよ。場所準備しただけだし」

「そんなことないよ、橋口くんが企画してくれなかったらこんな機会なかっただろうし、料理もおいしかった」


 嬉しそうに頷く橋口くん。


「おじさん、昔でかい店で働いててさ。割とボリューム重視だから女子には微妙かなって思ったけど、好評で安心した」

「みんなすっごく褒めてたよ。特に串焼き、橋口くんが言ってた通り―――」


 しゃべってから思い出す。その言葉が、誰に向けられていたものだったか。

 それは橋口くんも同じだったのだろう、手に持っていた携帯をポケットにしまうと。


「黒崎、やっぱ来なかったな」


 ぽつりと呟いた。
 
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