そして消えゆく君の声
 重くなった空気に、また胸が痛くなる。


「黒崎くんは、みんなで集まるのとか好きじゃなさそうだから。でも、橋口くんの気持ち嬉しかったと思うよ」


 こんな時、こんなことしか言えない自分が嫌だった。いい言葉が見つからないからって、心にもない建前を口にして。

 橋口くんは私の言葉には答えず、ポケットの中の携帯をいじりながら、何かを探すように人通りのまばらな通りを見た。


 短い沈黙。そして、ため息。


「日原って、中学受験組だっけ」

「ん?うん、そうだけど……」

「俺初等部からなんだけど、その時、黒崎と同じクラスだったんだ」


 吐き出した呼吸が、暗闇に溶けていく。


「三年と四年の時。あの時の黒崎って、今みたいに暗くなかったよ。暗いは言い過ぎか、後ろ向きじゃなかった。おとなしかったけど」


 ぽつぽつと、語られ始める昔話に、私は思わず背筋を伸ばして聴き入った。

 私の知らない、黒崎くんの話だ。あの事故が起きる前の。
 
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