そして消えゆく君の声
「家が同じ方向だったから、時々帰りが一緒になってさ。俺のしょうもない話をずっと熱心に聞いてたよ。すげえ金持ちだって聞いてたのに、自分の話は全然しなかった」

「お兄さんは一緒じゃなかったの?」

「ああ、征一さんだっけ。たまにいたけど、俺がいる時は用事があるとか言って先に帰ることが多かったよ。気ぃつかってたのかもな。せっかく同級生がいるんだしって」


 一人になるとあせる黒崎がおかしくてさあ、と橋口くんは目を伏せて笑った。届かない過去への笑みは、どこか切なかった。


「輪に入りたいけど、入れないって感じだった、あいつ。親父と釣りにいったとか、仲いい奴らと寄り道してたら怒られたとか、そういう話すると羨ましがって、でも一緒に行くかってったら断るんだよ。行きたいのばればれなのに」

「橋口くん、黒崎くんと遊びに行ったの?」

「いや、結局自然消滅した。ってか黒崎が避け始めたんだと思う。急によそよそしくなって、俺以外とも話さなくなったから」

「…………急に、話さなく」
 
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