そして消えゆく君の声
「夜分に来たことは、その、申し訳ないと思ってます。だけど、私」

「お引き取り下さい」

「少しだけでいいんです。ご迷惑はかけませんから……っ」

「すでに煩わしい気持ちにさせられているのがわかりませんか?」


 嫌悪を隠さない態度に、つま先から凍りつきそうになる。

 怖かった。こんな風に接されたことがなくて、言葉が上手く出てこない。

 たじろいで、しきりにマフラーを触る私に男の人は吐き捨てるように続けた。


「はっきり言わなきゃ理解できませんか」


 カツン、と革靴が乾いた音を立てる。

 門灯に照らされる白皙の顔。急に肩をつかまれ目を見開いた途端、一語一語区切りながら、低く囁かれた。


「帰れと言っているんだ、ガキ」


 乱暴に押され、足首がよろめく。

 それでも食い下がろうと柱に力を込めた私の後ろに、細い影が差した。


「そいつは俺が送っていく」
 
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