そして消えゆく君の声
「黒崎くん、私」

「行くぞ」

「でも」

「いいから」


 有無を言わさず、黒崎くんは明かりの少ない夜道を歩き出した。

 揺れるビニールから、水のボトルとミントガムが覗く。


 鋭い視線が背中に突き刺さっているのがわかって、つい骨っぽい肩に額を寄せると微かに筋肉がこわばって。

 でも、拒まれることはなかった。




 二つの足音が響くのは、私が来た道とは異なる、どこか裏道めいた路地。

 少し前まで瞬いていた星は雲に隠れて、ただでさえ暗い道の明度をますます奪っている。

 周囲の道は広く、立派な邸宅が並んでいるのに、ここだけが谷間のようだった。


「悪かった」


 ぽつりと呟いた黒崎くんが何の話をしているのかわからなくて首を傾げると、


「あいつは俺を嫌っているから、日原にもあんな態度を取ったんだと思う」


 抑揚の少ない、けれどどこか苦いものを堪えるような声が続いた。

 痩せた背中が僅かに丸まって、そして。


「……どうして来た」


 短い問いかけの言葉に、私は目を伏せて白い息を吐いた。

 喉で固まったようにうまく出てこない言葉を、口にするために。
 
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