そして消えゆく君の声
 私は喉をそらして、高い位置にある顔を見上げた。


 ずっと悲しい嘘ばかりついてきた唇。

 周りにある美しいものを、見ないようにしてきた目。奪った自分が、何かを求めることは許されないのだと。


「……わからないよ」


 多分、本音も苦しみも全部、カーテンで隠してしまうつもりだったのだろう。

 傷ついて、耐えて、また傷ついて。だけど、何もかも覆うことはできなかった。


「これまで、黒崎くんがどんな罪を背負ってきたか。どんな気持ちで生きてきたか。私なんかには絶対わからない。だけど、黒崎くんがずっと幸記くんを大切にして、守ってきたことは知っているよ。征一さんが大好きだったから、何をされても我慢してきたこと、何年ものあいだ謝り続けていたことも。だから」


 数メートル先に見える小さな広場。

 忘れもののように据えられたベンチに歩み寄って、私はもう一度、暗く長い夜道を背負って立ちつくす彼を見た。



「私は、これまでじゃなくてこれからの話をしたい」
 
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