そして消えゆく君の声
「…………」


 黒崎くんが一つ、歩を進める。

 足取りは頼りない。はりつめた心身に、風穴があいたように。


 街の明かりが徐々に足元を照らしだして、現れた顔は怒っているようにも、泣きたいようにも見えた。


「……これからなんて、ない」


 放心した声だった。


「あるよ。黒崎くんが避けていただけで。ずっと目の前にあったんだよ」


 痩せた右足がふらつく。

 くずれ落ちるようにベンチに座って、彼は遊園地にも似た夜景を見下ろした。


 死ぬほど求めて、やっとの思いで我慢してきたものが、喉元までせり上がっているのだろう。

 苦しいと言えなかった唇が、ほんのわずかに開いて堪えるように息を吸った。


「俺は征一にひどいことをしたんだ。勝手に勘違いして、嫉妬して、取り返しのつかない怪我を負わせてしまった」


 ぎこちない呼吸が肩を震わせる。


「傷を負うたびに、心のどこかで安心してた。自分がやったことと、少しは帳尻が合うんじゃないかって。ただの自己満足で、本当は恨む気持ちすら奪ったのに」

「……」

「幸記が俺に笑いかける度に、怖くなった。俺のやったことが知られたらどうしようって。罪悪感から逃げたくて、絶対に兄と呼ばせなかった。俺達は対等な存在だから名前で呼び合おうって。最低だろ」
 
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