そして消えゆく君の声
「え……」


 血の気が引いた。


「あの、言っている意味が……」

「黒崎秀二との接触を絶ってほしい、今後一切彼に関わらないでほしいと言えばわかるかな」


 そこの消しゴムを取って、みたいな軽さで言い放って、征一さんは笑みを深めた。

 私はまばたきひとつできなかった。

 言っている言葉の意味はわかるのに、会話が成立していない。

 なぜ私と黒崎くんのことを知っているのか、なぜ黒崎くんから離れる必要があるのか。

 意図も趣旨全くわからないのに征一さんは当たり前みたいな表情で返事を待っていて、それが余計に怖かった。

 ほんの少し言葉を間違えただけで幕が下りてしまいそうで、声が出ない。

 私の沈黙を迷いととったのか、征一さんは
「理由も聞かずに返事はできないね」と微笑んだ。


「これは日原さんに問題があるとか、弟の交友関係に口を出したいとか、そういう話じゃないんだ。弟に幸せであってほしいから、君にも協力してもらえればと思って」

「黒崎くんの幸せと私と、何の関係があるんですか?だって……」

「君と知り合ってから、秀二は変わってしまった」


 がらんどうの笑顔。

 征一さんが幸せと口にするたび、笑うたびに、砂のような何かが指の間をすり抜けていく。
 
< 304 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop