そして消えゆく君の声
「僕は秀二に幸せになってほしいと思っている。それが自分にとっての幸せでもあるから」

「幸せになりたいのなら、どうして黒崎くんに酷いことをするんですか? 私、知っています。先輩が黒崎くんに何をしているか。黒崎くんが、どうして傷だらけなのか」


 私が語気を強めても、諭すような微笑みは少しも崩れない。


「初めて見た人は驚くだろうね、でもあれは秀二にとって必要なことだから」

「必要な怪我なんてありません。おかしいです、あんな酷いことされて、幸せなんて……」

「君は、あの子が笑ったところを見たことがある?」


 突然の問いかけに、思わず口をつぐんだ。

 黒崎くんの笑顔。

 一度だけ見たことはある。
 征一さんの話をする前、私が想いを伝えた時の。

 でもあれは自分を嘲り、貶めるために顔を笑いに似た形に歪ませただけで、心からの笑顔には程遠かった。

 私の沈黙を答えと受け取ったのか、征一さんが小さく頷いた。


「僕も、ずっと見ていなかった」


 かすかに残った光に照らされて、長いまつ毛が影を落とす。

 それはとても寂しげな表情で、仮面だと知っていても……知っているからこそ、胸が痛んだ。
 
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