そして消えゆく君の声
「……話がそれてしまったね。改めて、君が秀二に何らかの好意を持っているのなら、離れてもらえないかな。君は秀二をどこかに連れ出したいのだろうけど、あの子が最も幸せを得られるのは僕の近くだと思うから」

「先輩が、黒崎くんを大事に思っていることは、わかります。黒崎くんには、先輩が必要なのかもしれない。でも……でも私、先輩のお願いはきけません」


 舌が乾く。

 喉も口もからからで、気持ちがうまく言葉にならない。


「黒崎くんは、もう子供じゃありません。何が幸せか決めるのも、これからどうするのかを選ぶのも、黒崎くん自身だと思うんです。だから」


 たどたどしい言葉に、自分で自分が歯がゆくなる。もっと伝えなきゃいけないことがあるはずなのに。

 胸を締め付けていた恐怖が、少しずつ形を変える。

 怖い、じゃない。やるせないんだ。だってこの人は、何も悪いことなんて考えていない。


 ただ、おぼろげな幸福の記憶を無理やりつなぎ合わせようとしているだけで。


 征一さんは無言で私を見ていた。何かを見通すように視線を注いで、ぱちぱちと瞼を瞬かせる。

 やがて何か思いついたように微笑むと、ポンと手を叩いた。
 
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