そして消えゆく君の声
「君は、秀二という親しい間柄の人間から離れたくないんだね」

「それは違っ……いませんけど。でも、そう言う問題じゃなくて黒崎くんは」

「じゃあ、代わりに僕をあげる」

「は、はい?」


 唐突な発言に呆然とする私の肩に、征一さんの手が触れる。優しい手つきに驚くより先に、至近距離に顔が近づいて。


「僕が君の特別になる。友人でも恋人でも構わない、どうか特別にしてほしい」


 あまりにも予想外の発言に、頭が真っ白になった。 


「あの、それ、どういう」 

「そのままの意味だよ。僕が秀二の代わりに君のそばにいる。絶対に大切にするし、裏切りもしない。できる限り君にメリットのある関係を心がける」


 戸惑いなく寄せられた目鼻に身を引こうとする私を、空いた手が押さえつける。

 女の人みたいな華奢な手なのに、腕はぴくりとも動かなくなった。



「そうすれば、秀二を取らないでいてくれる?」
 


 問いかける目は小さな子供みたいで、悲しくなった。あなたが欲しかったのはそんなものじゃなかったはず。
 

 征一さんも黒崎くんもお互いを大切に思っていて、笑ってほしくて、幸せを願っていて。

 一緒の気持ちを抱いていたはずなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。


「……取るとか、そういうのじゃないんです。私はただ、黒崎くんに自分の道を歩んでほしいだけで」


 だけど、私には何も言えない。
 
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