そして消えゆく君の声
 震えを鎮めながら考える。

 俺はひょっとしたら、同じことをしているのかもしれない。

 守りたいもののために人を傷つけ、命まで奪おうとしている。


 こんなことをしても秀二は喜ばない。
 ただ打ちひしがれ、自分を責めるだろう。

 わかっている。わかっていても、これ以上兄の傷つく姿を見たくなかった。


 それに、もう一月も終わる。春はすぐそこ。残された時間は少ない。


 だから。
 だから、俺は。


「……きみで、三人目だよ」


 俺の気持ちなど知る由もない彼が、肩をすくめる。

 つっかえながら話す彼を見たのは初めてだった。


「……先々週、父さんから家を出るようすすめられて……じゃあ、秀二と一緒にって言ったら……駄目だ、って」


 眉を寄せたまま笑うものだから、まるで泣き笑いを浮かべているように見える。目の錯覚だとわかっていても。


「秀二と……離れてやれ、ってね。その後、日原さんと話して、君も……。僕はずっと秀二のことを、考えて……だけど間違えたんだね、どこで間違えたんだろう」

「俺もわからない。あんたがどうして、あんなことをしたのか」

「……うん……」

「……ごめんなさい」

「どうして、謝るのかな」
 
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