そして消えゆく君の声
「…………」


 私は胸を押さえて、ひっそりとうつむいた。

 周囲には、征一さんの死を悼んでいるように見えただろう。

 ずっとこうだった。

 幸記くんが告げたもう一つの事実に思いを馳せるたびに、心に風穴があいたように行き場のない寒気が全身を襲う。


 ――身体を蝕まれていたのは征一さんでなく、幸記くんだった。


 何年も前から抱えていた病が悪化して、現代の医学では手の施しようがないこと。

 秋からの通院は治療でなく、苦痛を緩和するものでしかなかったこと。


 思い返せば、なんとなく嫌な予感がしたことはあった。


 人目を避けて服用していた薬。

 何かをあきらめたような言葉。


 理由を言わない外出。そういえば、最近の幸記くんは以前より痩せていた。

 そして全てを知ったうえで、あの子は行動を起こした。自らの意思で、独りぼっちで残された時を過ごすことを覚悟して。


 どうしてこんなことになってしまったんだろう。


 穏やかな時が訪れる未来を信じていたのに、こんなにたくさんの人が傷ついて。この世にたった一つの命が失われて、優しい子が罪を犯して。


 どうして。
 どうして。


 ぞろぞろと歩き続けていた列がとまる。


 前を歩く中等部の子の悲痛なため息に顔をあげると、目の前には豪奢な病院を思わせる、白く大きな斎場がそびえ立っていた。
 
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