そして消えゆく君の声
 誰かの葬儀にきたのは、小学生の頃、ひいおばあちゃんが亡くなった時以来だった。


 最初に目に入ったのは、ここが誰の葬儀の場なのか示す看板。

 次に、黒い服を着た大勢の人々、お悔やみの言葉、白黒の幕と、立派な供花。


 ぞくりとした。

 ごまかしようのない、現実の死がそこにあった。


 ほんの数日前に征一さんと交わしたやり取りが、おもちゃ箱をひっくり返したみたいに次々とよみがえる。

 無理やり触れられた恐怖の向こうにひらめいた、あどけない笑顔、血まみれの手と不釣合いな穏やかな口調。迷いを帯びた言葉の数々。


 あの人はもういないんだ。

 手に入らない幸せを求めて、きっと何にも触れられないままこの世界から去っていったんだ。


 恐ろしさも怒りも泡のように消えて、ただ悲しみだけが胸をしめつけた。
 
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