そして消えゆく君の声
 いっせいに動いた視線の先には開いたガラス扉と、白い布で覆われた直方体の箱。


 黄色い花束が添えられた、真新しい棺が運ばれていく。


「……」


 棺の前に立つ要さんの胸には、穏やかに微笑む写真。

 横で位牌を抱えているのはきっと、お父さんなのだろう。

 それまで何となく想像していた怖い親、怖い権力者のイメージとはまるで異なる細面は、高校生の子供がいるとは思えないほど若く見える。

 細く通った鼻筋や幅の広いつり目は、どこか幸記くんに似ていた。


 私たち参列者は、みんな無言になった。


 細長い棺につめられた現実の重さに、声が出なかったと言うほうが正しいのかもしれない。

 息のつまるような沈黙と、深い悲しみに包まれた空気。


 けれどそれは、後方から聞こえた驚きの声によって打ち破られた。


「ねえ、あれ…」


 抑えた声があがる。

 ひそひそと、囁きにも満たない耳打ちが広がるにつれ、人の列はモーセの海のようにわかれて一人分の道を空けた。


 ふらつき、よろめきながら現れた黒崎くんのために。
 
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