そして消えゆく君の声
「く……」


 壮絶な面差しに、名を呼びかけた声が途切れる。

 青く生気のない顔をした黒崎くんは、ほとんど幽霊のようだった。


 落ちくぼんだ目に真っ黒なくま。


 もう片方の目は、大きな白いガーゼにおおわれている。

 部屋着そのままの格好とかかとのつぶれた運動靴、ぼさぼさの髪が失われた正気を感じさせた。


 要さんの口元がひきつったのがわかる。


 とはいえ、出棺の途中で声をかけるわけにもいかないのか、まっすぐ前を向いた横顔は時おり視線を投げかけながら車の方へと歩いていった。

 お父さんと要さんが列の前を通り過ぎ、棺を抱えた人々が後に続く。

 観音開きのドアからせり出した台にふちの部分を引っかけて、そのまま奥へと押し込もうとした、時。


 にいさん。


 滴のように耳を打ったつぶやきに私が振り返った時にはもう、痩せた身体は駆け出していた。


 白い棺に。

 その中で眠る、兄に向かって。
 
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