そして消えゆく君の声
「兄さん。俺、きたから」
ひざが汚れるのも厭わず、地面にひざまずく。
枯木じみた指で木の表面をなぜて、黒崎くんは子供のように頼りない声で呼びかけた。
「もう大丈夫だから、家に帰ろう。全部言うこと聞くから」
小刻みに息を吐く唇はがさがさに乾いてひび割れている。
どれだけ声を重ねても返る言葉はなく、夢を見ているようにうつろだった目は、みるみる内に絶望にピントを合わせていった。
「兄さん、ねえ、兄さん」
焦燥にかられて、早口になっていく声。見開かれた瞳のなかで、何かが砕け散る。
「兄さん、兄さん、兄さん、兄さんっ」
白い布にすがりつき、力まかせに側面を叩く姿は棺を壊そうとしているかのようで、担任らしき先生が慌てて肩をつかんでも、黒崎くんは拳を打ちつけ続けた。
「君、やめなさいっ」
「離せ、兄さんが、兄さんがっ……」
数人がかりで押さえつけられて、激しく身をよじる。
幾筋もの涙が頬を濡らし、荒い呼吸はしゃくりあげる声へと変わっていった。
ひざが汚れるのも厭わず、地面にひざまずく。
枯木じみた指で木の表面をなぜて、黒崎くんは子供のように頼りない声で呼びかけた。
「もう大丈夫だから、家に帰ろう。全部言うこと聞くから」
小刻みに息を吐く唇はがさがさに乾いてひび割れている。
どれだけ声を重ねても返る言葉はなく、夢を見ているようにうつろだった目は、みるみる内に絶望にピントを合わせていった。
「兄さん、ねえ、兄さん」
焦燥にかられて、早口になっていく声。見開かれた瞳のなかで、何かが砕け散る。
「兄さん、兄さん、兄さん、兄さんっ」
白い布にすがりつき、力まかせに側面を叩く姿は棺を壊そうとしているかのようで、担任らしき先生が慌てて肩をつかんでも、黒崎くんは拳を打ちつけ続けた。
「君、やめなさいっ」
「離せ、兄さんが、兄さんがっ……」
数人がかりで押さえつけられて、激しく身をよじる。
幾筋もの涙が頬を濡らし、荒い呼吸はしゃくりあげる声へと変わっていった。