そして消えゆく君の声
 ……征一さんの死後、長期の出張に出ていたお父さんに連絡した要さんは、征一さんが自ら命を絶ったのだと説明した、らしい。

 知らされたのは事件の翌日。

 ことの成り行きを語る要さんの声はひどく淡々としていて、それが逆に葬った「真実」の底知れなさを感じさせた。


 本当は、要さんも打ちのめされているのかもしれない。私と同じように。内心の動揺を隠すことで、自分を保っているだけで。


「あいつはあいつで、やりとげたみたいな顔しちゃってさあ。俺がどんな気持ちで親父を誤魔化したか。生きた心地しなかったっての」

「大変でした、よね。……その、色々と」

「本当、善良な俺が巻き添えにならなくて良かったよ」


 あの日、大勢の涙に包まれて、ひっそりと灰塵に帰した真実。

 血まみれの包丁。えぐられた心臓。
 赤く染まった床と、出血多量による死。
 征一さんがこの世界からいなくなった本当の理由。


 これは、隠してはいけないことだ。

 そう誰かが訴える声が聞こえるたびに心臓がどくどくと脈打って、息苦しさに胸をかきむしった。

 自分の身に起きるなんて想像すらしなかった、暗部に触れる恐怖。


 でも、声を上げることはできなかった。

 幸記くんがひどい目に遭うのが嫌で、私は横たわる征一さんに背を向けた。一度知った事実からは逃げられないのに。


 ――私はどうするべきだったんだろう。


 ずっと影のように付きまとっている後悔。

 どうすれば、何を伝えれば、この最悪の事態を防ぐことができたんだろう。
 
< 347 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop