そして消えゆく君の声
 吐息じみた声はくっきりと響いて、私たちの間に沈黙を積もらせた。

 無機質な金属を撫ぜる、あまりにも痩せ細った指。本当にこの指が鋭い刃をにぎったのだろうか。何のために。何を望んで。何を犠牲にして。

 知りたいこと、聞きたいことが頭の中でぶつかり合ってはバラバラになる。


「桂さんは怖くないの?」 

「え……」

「だって俺、人を殺したんだよ。俺はもう絶対、二人には会えないと思っていた」


 淡々と問う声に、投げやりな色はうかがえない。後悔も。きっと本当に、何もかも覚悟してのことだったのだろう。

 それでも、儚く幼い横顔にはひっそりと悲しい影が差していた。


 私は押し黙った。


 怖くないとは言えなかった。
 言い切れなかった。

 今の私は混乱しすぎて、自分自身の心を見通すことができなかったから。


 あの日――黒崎くんが深い傷を負った日、私は初めて目にした強烈な暴力に本能的な恐怖を覚えた。


 切り裂かれた皮膚。
 深く穿たれた刃物。


 何よりもあふれ出た血と黒崎くんの苦悶の表情が怖くて、ただただ混乱して泣き叫んだ。
 
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