そして消えゆく君の声
 静かな、けれどまっすぐ芯の通った声。

 知っている。あの日告げられた言葉が、どれほど勇気を振り絞ったものだったか。どれほど心を揺さぶったか。

 でも、これからなんて考えるべきじゃなかった。じっとやり過ごしていれば失わずに済んだ。だれも苦しまなかった。あの人が、兄が望むようにしていれば。


 望み。


 ……望み?
 兄は何を望んでいた?

 俺が従順であること。ぎこちなく笑うこと。違う。それは結果だ。願いの先に起きること。

 じゃあ本当に望んでいたのは?
 こうであってほしいと、いつも口にしていたのは?


 意思とは無関係に回る思考は、やがてねじが切れたように速度を落として記憶の断片を映し出す。

 曖昧に閃いては霧散する記憶を手繰りよせると、何度も聞いた言葉が、不意に泡のように浮き上がった。



『僕の願いは、秀二の幸せだけだよ』

 
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