そして消えゆく君の声
花の匂い。小さな手。初めて見た笑顔。春のやわらかな空気。夏の陽射し。川のせせらぎ。夜を照らすホタル。色付く秋。枯葉の音。前を歩く弟の長く伸びた影。名前を呼ぶ声。
かけがえのない人の一生を踏みにじってから、ずっと明けない夜を歩いているのだと思っていた道の端々で、ごまかしようのない光がまたたいている。
全部奪って、全部なくして。
それでもずっと目の前にあった世界。
五感に残る色彩。
二度と触れられなくなっても永遠に心に刻まれる記憶の、ぬくもりの温度。
それを何と呼ぶのかを、俺は知っている。
思い至った瞬間、見えない膜のようなものが急激に膨らんで弾けた。
かけがえのない人の一生を踏みにじってから、ずっと明けない夜を歩いているのだと思っていた道の端々で、ごまかしようのない光がまたたいている。
全部奪って、全部なくして。
それでもずっと目の前にあった世界。
五感に残る色彩。
二度と触れられなくなっても永遠に心に刻まれる記憶の、ぬくもりの温度。
それを何と呼ぶのかを、俺は知っている。
思い至った瞬間、見えない膜のようなものが急激に膨らんで弾けた。