そして消えゆく君の声
「……」
一度だけ。
こんな風に、幸記くんの病室に人の気配があるのを感じたことがある。
最初は看護師さんかと思ったけれど、窓越しの影は動く様子がなくて。怪訝に思いながら通り抜けた駐車場脇の道で、知っている人とすれ違った。
黒崎くんのお父さん。
コートで顔を隠すように歩いていたから顔が見えたのは一瞬だったけど、切れ長の瞳が目を引く細面は確かに征一さんの告別式で見たそれだった。
(どうして、あの人が)
逃げるように去っていった後ろ姿が瞼裏に浮かぶ。何か良くないことが起きるのではと幸記くんに誰か来なかったか訊いてみたけれど、幸記くんは眠っていたから覚えていないと首を振るだけだった。
こっそり連絡をとった要さんにも「そんな暇人じゃないよ、見間違いでしょ」と一蹴されたから、ただの勘違いだったのかもしれない、けど。
もしも本人だったなら、何も言わずに帰ったりせず、話をすれば良かったのに。話すこと、向き合うべきことがあるはずなのに。幸記くんと暮らすと決めたのはあの人のはずなのに。
……あんな険しい顔をして、どうして。
一度だけ。
こんな風に、幸記くんの病室に人の気配があるのを感じたことがある。
最初は看護師さんかと思ったけれど、窓越しの影は動く様子がなくて。怪訝に思いながら通り抜けた駐車場脇の道で、知っている人とすれ違った。
黒崎くんのお父さん。
コートで顔を隠すように歩いていたから顔が見えたのは一瞬だったけど、切れ長の瞳が目を引く細面は確かに征一さんの告別式で見たそれだった。
(どうして、あの人が)
逃げるように去っていった後ろ姿が瞼裏に浮かぶ。何か良くないことが起きるのではと幸記くんに誰か来なかったか訊いてみたけれど、幸記くんは眠っていたから覚えていないと首を振るだけだった。
こっそり連絡をとった要さんにも「そんな暇人じゃないよ、見間違いでしょ」と一蹴されたから、ただの勘違いだったのかもしれない、けど。
もしも本人だったなら、何も言わずに帰ったりせず、話をすれば良かったのに。話すこと、向き合うべきことがあるはずなのに。幸記くんと暮らすと決めたのはあの人のはずなのに。
……あんな険しい顔をして、どうして。