そして消えゆく君の声
二度目の春
「行ってきまーす」
何度結び直しても片側が長くなる胸のリボンを諦めて、駆け足で家を出る。
新しい一年を祝福しているような青く澄んだ空。木々の間から聞こえる鳥の声。
桜の花びらが舞う川沿いの道をひとり歩いていてると、ふときらきら光る水面が目に入って、あの子もこの景色を見ているだろうかと考えた。
良かったことだけ思い出してと微笑んでいた姿を、瞼の裏に思い描いて。
短い春休みが終わって、私たちは二年生になった。
うちの学校は二年から文系理系に分かれるシステムで、当然文系コースの私と雪乃は今年も同じクラス。AからCまで3クラスもあるのに、そろそろ賄賂を疑われるかもなんて笑い合ったけど、コミュニケーション能力が高いとは言えない私にとって、一番の親友が一緒なのは心強かった。
意外だったのは、黒崎くんが理系コースを選択したこと。元々理系科目が得意とはいえ、自分に関することを積極的に選ぶのを見たのは初めてだった。
『大学で勉強したいことがある』
という理由も予想していないものだったけど、もちろん、驚く以上に嬉しい気持ちが大きかった。
黒崎くんが選び取った道。何を学びたいのかまでは教えてもらえなかったけど、努力家な黒崎くんなら、きっと目指す場所に辿りつけると信じている。
これで、今後私と黒崎くんが同じ教室で過ごす可能性はゼロになったし、同じ理系クラスの角居ちゃんや橋口くんを羨ましく思う気持ちもあるけど、大切なのは黒崎くんのこれからだから。