そして消えゆく君の声
細い道を抜けて、小さな本屋さんの前を横切る。
隠れ家みたいに建つ焼き菓子のお店を気にしながら足を進めると、すこし大きな通りに出た。道に面した土地はマンションの建設中で、いつも工事の人が行き来しているけど、今日は休みなのか機材が置かれているだけだった。
ふっくらした毛並みの良い白猫が、身軽な動きで家の塀によじ登って奥へと消えていく。
「日原」
低い声に呼び止められたのは、私が道路を渡って、いつも通る角を曲がろうとした時だった。反射的に振り返ると、足元で踵が砂をこする音が上がる。
「なに?」
と、短く返した視線の先、数歩後ろに立つ黒崎くんが、長い前髪の隙間から私を見ていた。
物静かな眼差しを真っすぐ向けられて、心の表面に、まばたきほどの波が走る。きんと音を立てて頭上で点灯した街灯が、黒い瞳に薄曇りの月のような淡い輝きを与えていた。
思えば、こんな風に正面から黒崎くんを見たのは久しぶりだった。出会った頃よりもまだ伸びた背丈。骨の成長に追いつかないような長く細い四肢。清潔に乾いた薄い唇と、細い鼻筋。そして、ほんの少しの灰色を帯びた濁りのない瞳。
これからどんな道を歩んでも、誰の手を取っても、きっと永遠に幸福を願う人。
隠れ家みたいに建つ焼き菓子のお店を気にしながら足を進めると、すこし大きな通りに出た。道に面した土地はマンションの建設中で、いつも工事の人が行き来しているけど、今日は休みなのか機材が置かれているだけだった。
ふっくらした毛並みの良い白猫が、身軽な動きで家の塀によじ登って奥へと消えていく。
「日原」
低い声に呼び止められたのは、私が道路を渡って、いつも通る角を曲がろうとした時だった。反射的に振り返ると、足元で踵が砂をこする音が上がる。
「なに?」
と、短く返した視線の先、数歩後ろに立つ黒崎くんが、長い前髪の隙間から私を見ていた。
物静かな眼差しを真っすぐ向けられて、心の表面に、まばたきほどの波が走る。きんと音を立てて頭上で点灯した街灯が、黒い瞳に薄曇りの月のような淡い輝きを与えていた。
思えば、こんな風に正面から黒崎くんを見たのは久しぶりだった。出会った頃よりもまだ伸びた背丈。骨の成長に追いつかないような長く細い四肢。清潔に乾いた薄い唇と、細い鼻筋。そして、ほんの少しの灰色を帯びた濁りのない瞳。
これからどんな道を歩んでも、誰の手を取っても、きっと永遠に幸福を願う人。