そして消えゆく君の声
「――」
震えを帯びた唇が、名前を呼ぶ。
さっきよりもすこし掠れた声で。
その優しくて、どこか臆病さの滲む響きが心の深いところ染み込むのを感じながら、私は雲の上を歩くようなあやふやな足取りで前へと踏み出した。
数メートルの隔たりはあっという間に小さくなって、ほんの少し踵を上げれば呼吸すら触れ合いそうな場所で静止する。
今にも心臓が爆発しそうなのに、これ以上近付いても大丈夫だろうか。そんな不安が頭をよぎったけど、湧き上がる気持ちのまま痩せた身体に肩を寄せた。
微かなこわばりと、数秒遅れて背中に触れる手。届かなくていいと思っていた想いは重なる鼓動となり、布地越しに微かなぬくもりを伝える。
他には何も考えられなかったし、その必要もなかった。