そして消えゆく君の声
「というか、秀二最近どうしてんの? ここ一年くらい顔見てないんだけど」

「連絡とってないんですか?」

「用もないのにするわけないでしょ。大学だって忙しいだろうしね」

「それはそうですね、授業も毎日朝から夕方まであるみたいですし……」

「まあ、あれで身体だけは頑丈だから」


 今、黒崎くんはここから新幹線で三時間かかる県の医科大学に通っている。


 人のためになる仕事をしたいと志した道。

 その険しさは私には想像もできないものだけど、黒崎くんがどれほどの覚悟を、祈りをこめて頑張っていたかは、一番近くで見て知っていた。


 誰かのために自分を殺してきた、そうでなければ許されないと思っていた黒崎くんが、誰かのために生きようとしている。


 だから、寂しくないと言えば嘘になるけれど、私は私の考える道を少しずつ歩んでいる。いつでも胸を張って黒崎くんに会えるように……なんて言えるほどは頑張れていないけど。


 好きな人のために、好きな自分でありたいから。
 
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