そして消えゆく君の声
 花と水を供えて、周りを掃除してから屋根のついたベンチに腰を下ろす。私には理解できない幾何学柄のシャツを着た要さんが横に座って、足を組んだ。


「日原さんさ、俺が初めて話した日に言ったこと覚えてる?」


 ベンチの縁を掴んで、すこし眩しそうに空を眺める。


「初めて話した日?」

「そう。秀二は無理、きみにしてあげられることはないってね。見事に外れちゃったけど」


 思い出す。突然の電話。聞き覚えのない声。薄暗い店内に怯えながらようやく出会えた相手。黒崎くんのために何かできるかもしれないという希望を打ち砕かれて、どうしようもなく胸が苦しくなったこと。

 あの時は、こんな風に要さんと話す日がくるとは思わなかった。

 同じようなことを考えたのか、肩をすくめて要さんは続けた。
 

「俺さ、ああは言ったけど心のどこかで期待してたんだよ。日原さんが秀二をぶん殴ってくれるんじゃないかって。物理的な意味じゃなくて、心の壁をね」

「……私、が」

「そしたらどんどん状況が動いて、良いことも良くないことも起きて。俺もかなり肝が冷えたし、漫画みたいな大団円とはいかなかったけど、少なくとも日原さんがいなければ今の秀二はいなかったし、幸記も安心できなかった」


 だから、と滑るように視線を動かして、ゆっくり首を横に向ける。



「ありがとね」

 
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