そして消えゆく君の声
はじまり
その日、俺は一緒に帰ろうとする兄の手を振り払って一人で歩いていた。
喧嘩したわけじゃない。ただの八つ当たりだ。週末一緒に出かけるはずだった約束が駄目になって、もういい、一人で帰ると返事も聞かずに駆け出した。
用事は動かしようのないもので、兄は悪くない。わかっていても、突然のことに心がついて行かなかった。兄はいつも忙しくて、自分なんて忘れられてしまうんじゃないかと想像すると怖かったから。
唇をきつく噛んで、家と家の間を駆け抜けること十数分。
見たことのない道を通る不安はあったものの、兄と顔を合わせたくないという気持ちの方が大きかった。
やがて辿りついたのはアパートとマンションにはさまれた小さな公園で、俺は誰もいないのを確認してベンチに座り込んだ。
(……兄さん、探してるかな)
胸をちくりと刺す痛みに、慌てて首を振る。兄さんなんて知らない、もう家には帰らないと出来もしないことを考えながら通学鞄を抱える腕に力を込めた……瞬間。
「ねえ、そこで何してるの?」
いきなり後ろから話しかけられて、心臓が跳ね上がった。
喧嘩したわけじゃない。ただの八つ当たりだ。週末一緒に出かけるはずだった約束が駄目になって、もういい、一人で帰ると返事も聞かずに駆け出した。
用事は動かしようのないもので、兄は悪くない。わかっていても、突然のことに心がついて行かなかった。兄はいつも忙しくて、自分なんて忘れられてしまうんじゃないかと想像すると怖かったから。
唇をきつく噛んで、家と家の間を駆け抜けること十数分。
見たことのない道を通る不安はあったものの、兄と顔を合わせたくないという気持ちの方が大きかった。
やがて辿りついたのはアパートとマンションにはさまれた小さな公園で、俺は誰もいないのを確認してベンチに座り込んだ。
(……兄さん、探してるかな)
胸をちくりと刺す痛みに、慌てて首を振る。兄さんなんて知らない、もう家には帰らないと出来もしないことを考えながら通学鞄を抱える腕に力を込めた……瞬間。
「ねえ、そこで何してるの?」
いきなり後ろから話しかけられて、心臓が跳ね上がった。