そして消えゆく君の声
「大量に生まれて大量に死ぬ生き物は虫や魚にも存在する。弱い個体は余剰として淘汰されて、残った個体が種を維持する。そう設計されている」


 奥歯を噛む音が聞こえた気がした。


「……淘汰されることを前提とした命って何なんだろうな」


 重く苦しげな声。


 どうして?
 ネズミが可哀想だから?


(……違う)


 違う。ううん、それもあるかもしれないけど。黒崎くんはもっと別のことを思い浮かべているような気がする。

 別のことの正体はわからないけど……。


「……」 


 どう返していいのかわからなくて、本を抱えたまま黙りこくる。すると黒崎くんはハッと口元を押さえて、何かをこらえるように声をしぼり出した。


「……悪い、つまらないことばっかり」


 うつむいた首筋を、どこか不健康な濃いオレンジの光が侵食している。

 死に始めた太陽の色。
 凪いだ胸に、そんな印象が走った。
 
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