そして消えゆく君の声
 ……

 …………って、
 な、なに恥ずかしいこと考えてるんだろう。

 一人考えて、一人赤面してしまう。

 片手で口元を押えると知らない間にニヤついていた唇に指が触れて、これじゃあ恋する女の子どころか不審者だ。


 ……そんな風に一人百面相をしている間にも家は近付いてきて、もうそろそろマンションの入口が見えてくる、という時。 


 ふいに、誰かの声が聞こえた。


(あれ……?)


 何だろうと立ち止まっても、耳に入るのは雨がアスファルトを打つ音ばかり。


(聞き間違いかな)


 けれど、首をひねりながら右足を踏み出すと同時に、「声」は雲切れのようにくっきり響いた。


「……っ、く……」


 声というより嗚咽に近い。雨風にゆれる葉の音に混じってかすかに耳に入ってくる痛々しいうめき。

 私はあわてて辺りを見まわした。迷子かもしれないし、急病で動けなくなっているのかもしれない。どちらにせよ大変だ。


「だ、大丈夫ですかー?」
 
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