そして消えゆく君の声
「――」


 私は息をのんだ。

 人目を避けるように草むらで震えていた男の子。しかも、二つの目は涙で赤くなっている。

 こんな時間にこんなところで、一体どうしたんだろう?


「え、っと……」


 声がつまる。

 こんなに怯えた目を見たのは初めてだった。薄氷のように張りつめて、ほんの少し触っただけで壊れてしまいそう。


「とりあえず……怪しい者ではない、と思うんですけど」

「……俺を探しにきたんじゃ、ない?」

「は、はい。多分」


 状況がつかめなくて曖昧にうなずくと、男の子は心底ほっとしたように、


「……良かった」


 肩の力を抜いて、けれどすぐにまたうつむいてしまう。黒目がちな丸い瞳に、見る見るうちにたまっていく涙の膜。


「でも、これからどうしよう」

「あの、どうかしたんですか?」

「……こんなことしても、意味がないのに」

「こんなことって」

「逃げてもしょうがないのに、なんで俺……」
 
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