そして消えゆく君の声
 身体の底から湧きあがった気持ちが、混乱しきった頭にどうにか芯を通した。

 出会ったばかりの私が首を突っこんでいいのかわからないけど、何ができるのかもわからないけど。

 とにかく放っておけない、こんなこと。


「……幸記、くん」

「な、なに?」

「怪我、見せて」

「だけど、これはただの……」


 長い指で必死にシャツの裾をかき集める幸記くんに、私はできる限り笑って話しかけた。


「擦れて化膿しかけてるところあるし、消毒しないと。痛くないよう気をつけるから」


 大きな目が、もっと大きく見開かれる。長いまつ毛が小刻みにふるえて、気まずげにふせられた。


「……ごめん、色々、迷惑かけて」


 心苦しそうな声が悲しかった。


「迷惑だなんて。全然、平気」


 プラスチックの救急箱を引き寄せて骨ばった肩に触れる。

 反射的に身体をこわばらせた幸記くんは、けれど、やがてゆっくり全身をあずけてくれた。
 
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