そして消えゆく君の声
「もしもし、俺、だけど」


 血色の悪い唇を通話口によせて、かすれた声で話す。

 その横顔は、ひどく緊張しているような、けれどどこかで安堵しているような不思議な表情を浮かべていた。


「……うん、ごめん。心配させるつもりはなかったんだけど。……え、居場所?は……よくわからないんだけど」


 言葉とともに疑問まじりの視線をむけられて、私はあわてて答えた。


「あの、桃山駅の近くです、えっと、北口から見てすぐ横のマンション」

「なんとか山駅の……桃山?うん、それ。そこの北口のマンションって……え? 大丈夫だよ。すごくいい人」


 口元だけで笑って、首を振る幸記くん。

 どうやら、私は誘拐犯か何かだと思われているらしい。確かに、やっていることは大差ないけれど。


(それにしても)


 幸記くんはこの辺りに住んでる人じゃないのかな?

 桃山はそこそこ大きい駅で、街に出る時とかもにも利用するから地元の人が知らないはずないのだけど。


「……迎えに?今から?でも……」


 言いよどんだ唇は、やがて細い息を吐いた。


「……わかった、じゃあ、帰る」
 
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