そして消えゆく君の声
雨の止んだ日
次の日の朝。
いつもより早めに登校した私は、昨日の夜何度もたたみ直した傘を持って黒崎くんに声をかけた。
大きな緊張と、小さな親しみをかかえて。
「黒崎くん、おはよう」
「……」
かかとのつぶれた上履きをはきながら、無言で顔を上げた黒崎くんは、今日もいつも通り細くて長くて、いつも通り表情がない。
でも靴箱にそえられた左手には、いつもと違うまっ白な包帯が巻かれていた。
(?)
どうしたんだろう。
昨日話した時は怪我なんてしていなかったのに。
「あの、昨日はどうもありがとう。私、家まで結構歩くから、すごく助かっちゃった」
「……」
よほど傷が痛むのか、靴を履くのも鞄を持つのも同じ手だ。やがて立ち上がると、無言で空いた手を差し出してきたから、
「それどうしたの?」
手元をのぞき込みながらたずねると、切れ長の目が逃げるように伏せられた。